オーディオ・ベースマン見たり聴いたり アキュフェーズが聴き手に届けたい計測できない物。

オーディオ・ベースマン見たり聴いたり アキュフェーズが聴き手に届けたい計測できない物。

『S/Nとダンピング・ファクター』、その二つの要素の改善、向上にアキュフェーズは力を入れてきた。10月19、20日に行われたアキュフェーズ・常務取締役 大貫 昭則氏による試聴会。初めに断って置きますが、この文章、僕が試聴会で感じた印象と捉えて、実際の解説内容と違いがある、間違いがあると思って読んでください。参考程度にして下さい。

岩手県・遠野市。標高797.7mの高清水山に展望台がある。遠野市を一望でき、太古湖だった頃の遠野を偲ぶことのできる場所。

大貫常務は「S/N」の解説時「S/N感」という概念も語った。「S/Nは計測できます。(しかし)S/N感は設計も計測もできません」。そして`S/N感´とは`S/Nとダンピング・ファクターの相乗結果として表れる´とした。大貫常務が考える`S/N感´とは、オーディオシステムで音楽を聴く際に「演奏感(演奏が行われている感じ)や(その演奏の)音楽表現の変化が見える(感じられる)、伝える事ができる(感覚)」だと言う。そして、それ(S/N感)をアンプで「表現、再現」したとする。まず、S/N。ネットで調べると「音楽を再生した場合に必要な音楽信号(Signal)つまり聴きたい音、不要な雑音(Noise)つまり聴きたくない音とのレベルの比を示す値Nが分母、Sが分子。単位はデシベル(dB)で表わす」とある。ちなみに、普通の人は数字を挙げると120㏈ほどまでしか聴き分けられないらしい。アキュフェーズとしては、「ノイズ(N)を減らす」ことを重点に置いている。その部分、同社の最新パワーアンプ・A-48Sのカタログでいえば「高いノイズ性能、~ノイズ・レベルは6パーセント改善しています」という記載がそうだろう(S/N比に関してはアキュフェーズ・A-300試聴会 その②を参考にして下さい)。そして、もう一つの「S/N感」を構成する要素、「ダンピング・ファクター」。「ダンピング・ファクターとはスピーカー(SP)を動かす能力。(保証している性能は)1000。それで頭打ちにしてあります。実際に計測すると2000、3000ありますが。この部分は1000でいいと。(数字で)競争する事はしません」と大貫常務。「(パワーアンプのダンピング・ファクターが)SPの低域(の音を)出して止める力。そこをしっかり設計したい」と続け「『パッ』と音を出し、『スッ』と音が引く。メリハリがでて音の落差がでる」。ダンピング・ファクターを有効に使い、音の出、引きをシッカリさせるとS/N感が向上し「(音源から)演奏者の音楽表現を正しく再現する(できる)。そういう音造りをしている(心がけている)」と締めくくる。

キレイな花火。でも物語が読み取れない、感じられない。背景が必要だ。

`S/N感´。文章で書いてもピンとこない事もあります。それで、不十分ながら`花火の写真´で表現してみました…。「一つ目の写真。展望台から見た花火と遠野市の夜景。花火以外の光が映ることで、その花火の日の情景、空間、時間、生活が感じられる」。余計な物も映っているがゆえ夏の花火の情緒は出ている。「ドン」という音まで聴こえてきそうだ。見ている人の気持ちまで察することができる。`S/N感´とはこんな感じかもしれない。「二つ目の写真、花火の色彩、光彩は暗闇のなかに映えて美しい。その美しさは伝えられても、それ以外に`夏の花火´を表現するものはなく`夏の花火´の情緒、それを鑑賞する人間の感慨、心情は感じられない」。花火の背景に何もなくピントが合い、様々な色も出ているが面白くない。S/N比の数字(写真の暗闇の部分)、ダンピング・ファクター(写真の花火の光が中心、芯から尾を引いて消えている部分まで。つまり、『パッ』と炸裂した瞬間から『サッ』と暗闇に消えた状態)の数字が高くても何かが無い´と無機質なつまらない再現になるような気がする。ノイズ低減(S/N比の向上)とSPの起動、制動の性能(ダンピング・ファクター)の向上は、音を「ハッキリ、クッキリ、スッキリ」させる。だだ、その要素が上手く相互に作用、相乗効果を発揮しないと、計測できないが、聴感上でしか味わえない、得られない`S/N感´がでない。

試聴会は、大貫常務と営業の鬼頭さんが各自準備したCDを交互に掛けながらの解説だった。大貫常務の解説が終った後を受けた営業の鬼頭さん。「私は、2000人が入る規模の音楽ホールで、演奏前の(聴衆の抱く)緊張感が感じられるS/N(感)が欲しいですね」といって試聴用のCDを取り出しDP-770のトレイに乗せた。

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これまで演奏会に幾度となく足を運んだ。その中で、一番、「静かだった」のが2016年11月28日、県民会館中ホールで行われたパスカル・ロジェさんのピアノ演奏会。会場に入る前に立て看板が置いてあった。そこには「演奏者の希望で曲の余韻を楽しんでいただくため、曲間の拍手はご遠慮ください」と書いてあった。その夜は最高の演奏会だった。演奏者の希望のおかげか、会場内は緊張感は感じられず、自宅にいるようなくつろぎ感が醸し出された。身動きする人の気配、衣擦れ、会場内の空気のゆらぎ、息づかい、「音に出ない音⁉」を感じるが、聴衆がなごやかに曲を傾聴。演奏者が弾いたピアノの「消えゆく音」の最後の最後の部分、余韻が終って席をゆっくり立つ。その時に静かな拍手が湧き起こる。演奏者も聴衆も余計な事は一切しない。本当に静かな演奏会。こんな演奏会をもう一度聴くことができるのだろうか?。仮にこの演奏会が録音されていたなら、大貫常務の説く`S/N感´が発揮されたオーディオシステムで再現することができれば、当日の感動がよみがえることだろう。