オーディオ・ベースマン見たり聴いたり 告白 その②。 EMT 930st・・私好(ごの)みの音です。

オーディオ・ベースマン見たり聴いたり 告白 その②。 EMT 930st・・私好(ごの)みの音です。

EMT 930 st。広帯域、高SN比、高解像度、優れた高域特性といったオーディオ的要素では、ヤマハ・GT-5000には遠く及ばない。敢えて優位に立てる特性を挙げれば、低域から中域の”音の濃さ”と”レスポンス”か。店主が言う。「スッキリ、ハッキリしてませんが、その”音の濃さ”が私の好みです」。

楽器の多いオーケストラで聴き比べるとよく判る。性能は、ヤマハが完全に上だ。

「私は、高音が、1万Hzから上の音は聴こえません。ですから、オーディオの音の好みが中域から低域までの音の濃さという点に集まっているのかもしれません」。オーディオ製品を語る時、「スッキリ、ハッキリ、クッキリ」しているかどうかで性能を判断するが、自分の好みの音がでるプレイヤーの前では正直な気持ちを隠せない。ヤマハ・GT-5000を聴いた後、「『スッキリ、ハッキリ、クッキリもいいな』と思いますが、どうしても、このプレイヤーの音(EMT930st)が『やはり、この音がいい』と思わざるを得ません」。ヤマハは「正確な記録をなぞる音」ならEMTは「曖昧な記憶を呼び起こす音」というべきか。

好みの音の話ついでに、CDの音について触れた。重ねて、今は、若い頃のように高音が聴こえていないと言う。そう言いつつもベーシストである店主は続ける。「弦楽器で弦を弾(はじ)く、基音の<ド>を弾(ひ)く。すると、その1オクターブ上の<ド>の音が一緒にでる。倍音(響き)として出るのです。そのまた上の<ド>も。そして、基音の<ド>と1オクターブ高い<ド>の間の<ソ>。それも倍音として出ているのです。微(かす)かに出ているのです。わかりますか?」。そしてこう言った。「CDの高音(域)、(そのような)倍音が出てない!。どうしても、そう(高音の倍音がみすぼらしく)聴こえる」。と言いながら、事実、現実として、聴力が衰えている現状を気にかけていた。

それは、杞憂(きゆう)というべきだろう。音楽鑑賞において自然な聴力の衰えは気にする必要はないと思う。ノン・アルコール飲料。今、お酒(アルコール飲料)と同じぐらい”美味しい”飲み物となった。特に、”美味しさ”を感じる人は、本物のアルコール、お酒で「幸福な気持ちになったことのある経験を持つ」人。脳の中に、その楽しい記憶が埋め込まれており、ノン・アルコール飲料が、それを”呼び戻す”ことでお酒を飲んだ時と同じ充足感が味わえる。音楽も同様だ。若い頃から、正しい音楽を聴いていれば、脳内記憶の奥深い場所に残る。音楽を聴いた時、聴覚が衰えようが、音波は脳内部に届いている。それが、記憶を呼び起こし、頭の中で、十分、綺麗な「高音」が聴こえているに違いないと確信している。それが、音楽を聴く楽しみに通じるに違いない。